「ボリュメトリックキャプチャ技術」を使用したVFXのワークフローについて

こんにちは、映像ディレクター/VFXアーティストの涌井嶺です。
今回は「VFX映像制作プロジェクト」の撮影日編です。
前回の記事で作成した企画をもとにスタジオで撮影します。
スタジオはいつもお世話になっているクイックスタジオ世田谷さんで行いました。
カメラマンは数々の映画やMVの撮影実績のある今井さんに依頼しました。
今回はジンバルワークのワンストロークで撮影をお願いしました。
トラックマーカーの設置
まずは僕のグリーンバック撮影において欠かすことのできないトラックマーカーを設置していきます。
トラックマーカーとは
後から3Dソフトでトラッキング(撮影時のカメラの動きを再現する作業)するために、目印として壁に貼るマーカー
マーカーの選び方
グリーンバック撮影においてトラックマーカーの設置は非常に重要な行程なので、撮影を重ねるたびに改良し、その撮影の特性を考えて設置を工夫しています。
例えば今回はかなり人物とかぶるのでトラックマーカーもキーイングできるように、濃い緑のマスキングテープを使ってトラックマーカーを作成しました。
これまでの撮影では黒やピンクのマーカーを使ってたのですが、髪の毛などとかぶると抜けないという問題がありました。その代わりグリーンバックに対し目立つ色なのでトラッキングはしやすいです。
マーカーについて「いつもこれを使っています!」といったものはありません。自分でも持って行っていますが、スタジオのテープで使えるものがあったらそちらを使うこともあります。
ただ反射が少ないテープを用いた方が、カメラの角度が変わったりした時に色が変わらないためトラッキングしやすいです。
また「合成 = トラックマーカーの設置が必須」というわけではありません。
今回はグリーンバックなのでマーカーがないとソフトがマーカーを認識できないですが、実写に何か合成したりする場合は背景に写っているオブジェクトの特徴的な部分をトラッキングすることもあります。
例えば以下の作品では、背景の柵やビルの窓をトラッキングして三次元情報を得て、それをもとにヘリコプターを合成しています。
背景をトラッキングし撮影した作品
マーカーの位置
常にある程度の個数のマーカーが画角に映るように、カメラの動きから逆算してマーカーの位置を決めていきます。
ヨリの画角などは映るマーカーの個数が少なくなるので、意図的に密度をあげています。
背景のメインとなる奥の壁だけでなく、床や左右の壁など、三次元的な情報を持つ箇所にもマーカーを置くと、トラッキングの時に精度が高くなります。
マーカーの大きさは、カメラにちゃんと映ればわりとどんな大きさでも大丈夫です。
今回は寄ったり引いたりするので、どっちの場合でも大きすぎ/小さすぎにならないくらいに気を付けました。
マーカーについてはこちらのCGcompoさんの記事がとても参考になります。
信号機のボタンの位置にはセンチュリースタンドを置いて目印にしました。信号のボタンにマーカーは設置していませんが、センチュリースタンド自体がトラッカーとして使えます。
撮影時の設定
ライティング
映像イメージが屋外シーンからスタートなので、基本的には全体的に光が回るようなライティングにします。今回はスタジオ常設のライトを主体に照明を組みました。
さらに大規模なスタジオであれば、背景はキーイングしやすいようにノッペリと、人物は肌のトーンや顔の立体感が出るように陰影をつけて、背景と人物でライティングを別にすることが多いです。
キャスト髪型・衣装
白い衣装はこの規模のスタジオだとグリーンバックとの距離が近く、反射を受けて緑になりやすいので避けた方が無難です。
また金髪やレースなど透け感あるものもグリーンバックと相性が悪く抜きにくいです。今回はキーイングの手間を省くため黒髪のキャストにグレーや黒主体の衣装を着てもらいました。
「どうしても金髪やレースの衣装が必須なんです……」という際は、キーイングを頑張ります。 難易度はかなり上がりますが、とにかく頑張ってキーイングします。
金髪のキーイングの例
透ける衣裳のキーイングの例
今回はあくまで自主制作だったので、制作のしやすさ、合成の綺麗さを優先し主人公の見た目を決めました。
カメラ
3Dソフト側でカメラに追加の動きをつけることも考えて、広角レンズで広めに撮影をお願いしました。
モーションブラーが出にくいようにシャッタースピードは短めに設定してもらいました。
「カメラについて特別に勉強しましたか?」と聞かれることがあります。自分は撮影しませんが、3DCGをやってると必然的に覚えなきゃいけないこと(レンズについて、カメラについて)が出てきます。
自分はもともと実写出身だったのである程度知識があったので、その経験に助けられています。ですので今実写撮影をしている人にこそ、CG撮影を始めるのをおすすめします。
撮影本番
カメラのストロークと演技のタイミングが合うまで10テイクくらい撮りました。
グリーンバック撮影の難しさなのですが、撮影時にはキャストもカメラマンも背景がどんな感じになるかわかりません。自分の頭の中にしかないイメージを上手く伝えるのが現場では重要ですが、なかなか難しいです。
OKテイク
仮タイトル決定
撮影後に仮タイトルを「Turn Green」に決定しました。
- 〔信号が〕青になる[変わる]
- 緑色に変わる、緑変す
- 〔人が〕青ざめる、急に気持ち悪くなる
- 〔あることが〕非常に嫌になる
撮影を行いながら、「信号が青になる」ことと「最後に背景がグリーンバックになる」ことを掛けて考えてみました。「気持ち悪くなる」みたいなマイナスの意味もあるらしいので、引き続き検討します。
これにて撮影日編終了です。
次回は編集編です。